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『死が二人を別つまで』
                                          
                                      服部清人

 「このまま時間が止まるといいなって思ったことない?」
「そうね、寒い冬の朝に布団から出たくない時とか、おいしいケーキを食べ
ている時とか・・・」
「なんだか、つつましい人生を送っているってかんじだよね」
「いいじゃない。真理って意外とそんなところに転がっているものよ」
「でもね、個人の思惑とはまったく関係なく今もコチコチと秒針は時を刻んで、
我々はゆっくりと、しかし確実にフィナーレに向かって歩を進めている訳だ」
「・・・ねエ、いったい何の話?」
「僕も君もいつかいなくなるってことだよ」
「どうしちゃったの、急に」

「なぜ生物には死が予定されているか知ってる?」
「そんなこと考えたこともないわ」
「“進化のエネルギーに個体が耐えられなくなるから“と説明されているのを読
んだことがあるんだけど、なるほどと思ったよ」
「どういうこと?」
「地球上の生物はそれぞれ種を保存していくことを義務づけられている。その
ためには環境に応じて進化していかなければならないんだ」
「進化論ってダーウィンだっけ?」
「少しずつ体の構造を変化させて、より優れた身体的能力を新たに備えること
が、その種を繁栄させることになるわけだ」
「モデルチェンジした新車に乗り換えていくことと同じね」
「僕らは遺伝子の乗り物。古くなったら故障もするし、廃車にもなる」
「されど、我あり!よね。そんなふうにお前は歯車のひとつだって言われたっ
て、私にも意地がある」
「ベクトルはどうしようもなく未来に向かっているんだ。大きなエネルギーを蔵し
てね。その力は“神の意思”と言ってもいい。一個の生命体はその力に抗いき
れずに朽ちていく。それが死だ。だから僕たちは次の世代に優れた遺伝子を
引き継いでいく責務があるんだ」
「僕たちって、そこでどうして私のほうを見るのよ」
「だからさ、僕たちさ・・・」

「・・・これって、もしかしてプロポーズ?」

                                             了

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