日本、今は昔ばなし15 
    
                 邪な心を持たなければ万事咎無し
                                                    ななえせいじ

 今年は猛暑が続きました。熱中症で体調を崩した人も少なくありません。加えて台風、地震による被害も大きくありました。
 まずインフラの崩壊、液状化や地盤崩壊による住宅被害も顕著でありました。便利な住環境が破壊されました。苦痛の避難所暮らし、交通機関が麻痺し帰宅難民となりました。ここ数年のうちにより深刻度が増したように感じます。これはバブル経済時代の代償のように思えるのです。
 ここにきてさらに不安なのは、人口減少と高齢化、貧困層が増えたことであります。
 厄介なのは近頃の老人、切れやすくて扱いにくくて可愛くない。短慮でわがままな老人のなんと多いことか。
 これに対し支える側の若者は過剰労働と身分不安定な境遇に置かれております。上司のパワハラにおびえております。とにかく若者は自分のことで精いっぱい、人に優しくなれる筈がないのであります。

 今社会には毎日のように、殺人、無謀な交通事故など辛辣な事件がおこっています。これは格差を助長している今社会の弊害が顕在化したのだと思うのです。公正、公平を欠いた政治が悪いという人が結構多いのですが、これをしっかり査定するのが国民なのですが、強いもの勝ちの情勢は変わる気配がありません。

 2020年オリンピック、この宴の後の20年後、2040年を考えてみた時、そのころは団塊ジュニア世代が65歳以上になっております。私の孫は30代の働き盛りになっているはずであります。そのころの労働環境がどうなっているのか心配であります。

 先ごろテレビは銀行の無担保カードローンの弊害を特集しておりました。カード破産者がものすごい人数にのぼっているそうであります。カードローンは銀行が経営の一助に手掛けた商品でありますが、これが銀行のイメージを悪くしているのであります。
 60年も前の話です。私は若いころ質屋をちょくちょく利用しておりました。あの頃の学生は随分助けられたものです。質屋は担保に見合った額しか貸してくれません。アルバイト金が入るまでの繋ぎでしたから貸し手は取りはぐれがないし、借り手は借金残高を繰り越すことはありません。

 日本、今は昔ばなし。樋口一葉の短編小説「大つごもり」をご存知でしょう。大金持ちの家に奉公するお峰は愚痴も言わずに働いております。お峰は小さい時に両親に死別し伯父一家に育てられました。その伯父が病床にあり10円の借金を抱え貧困状態にあります。2円の利息の支払いが大晦日に迫り、それを御新造(おかみさん)さんから借りる約束になっておりました。そこへ先妻の子で御新造とは折り合いが悪い跡取り息子が20円の金の無心に帰ってきたのです。継母の御新造はお峰との約束を反故にします。困ったお峰は「神さま仏さまお許しください」と引出から20円の内2円だけ盗みます。酔ってうたた寝していた息子はお峰の所業に気づきながらも「たしかに20円あずかったよ」と調べもせずに紙袋を懐に入れます。お峰の罪を被ったのです。何も知らない御新造は、「お前は相変わらずだね」となじるのです。
 借金にもいい借金と悪い借金があります。
お金は自由に流通し宛先がありません。実際は心づけという言葉があるくらいですから、どんなお金にだって出どころと使い道があるのです。いいお金、悪いお金の区別は付けにくいでしょうが、それを手にした人の心の内には厳然とした区別があるはずであります。

 さて今日、カードローンは無担保、無審査のうえATMで手軽に借りられるとあって、利用者は消費者金融を上回っているというのです。借金を繰り返えすうちに感覚はマヒし、借金の意識すら薄らいでいくのだそうです。このせいであるかどうか、振り込め詐欺、コンビニ強盗、こそドロ、ひったくり事件のなんと多いことか。一方でテレビ通販など買い物の誘惑がこれでもかといわぬばかりに氾濫しております。すべて自己責任とはいうものの誘惑に弱いのも人間であります。自己管理に徹底できないのも同じ人間なのであります。自己破産が急増しているのも、こうした社会背景があるのでしょうね。今よりいい生活がしたいと思うならば、答えは簡単、資産を上回る借金をしないことであります。

                       
                 2018年9月28日
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