ななえせいじのエッセー             
                      
老人の主張 
    
                          
       ななえせいじ
 
 
 この老人は茶の湯を趣味としてきました。その茶会席で歴史の証左とたびたび出会う歓びは格別であります。最近目にした掛け軸は聖武天皇ゆかりの藻塩草(京都国立博物館所蔵国宝手鑑)とかかわりがあるとされる一品でありました。
 天皇宸筆の伝承があり一行十二字前後の大字で書写されているところから大聖武と名称されたと言われます。はじめ東大寺戒壇院に伝承しましたが室町後期に流出し切断され風格字形から珍重され手鑑の冒頭に押されることが多いとされます。人気の古写経となって定式化し、たびたび切断されたため結果として数行程度の形式で一般に流通したと思われます。ここで目にした写経文はいかなるルートによるものかは分かりませんが茶会楽しみの本命であることは確かであります。茶席の軸は五行からなり席主の言葉によれば一行百万円とのこと。

 以下はこの掛物から転じた筆者の勝手な思いであります。
 聖武天皇と言えば奈良の大仏さまを思い出します。天平時代は天然痘が大流行し沢山の死者が出ました。想像でしか分かりませんが令和のコロナ禍の比ではなかったようであります。国民の天然痘からの苦しみを解放しようと苦心の末、天皇は大仏さま建立を思い立ちました。天皇の優しさが伝わります。(筆者のエッセー七コロナ八起144頁をご覧ください)
 千年の時を経て国家体制は武家政治やら天皇政治やらのいくつかの変遷を経て戦後の時代は民主主義となりました。我々国民は皆主権者の一人であります。我儘が言える立場でもあります。従って税金のこととなりますと黙っておられません。殊に増税ということには敏感であります。従って死に際に臨んで老人達は孫の代まで思いが及びます。無関心ではいられないのであります。
 その昔、仁徳天皇はかまどの煙が上がっていないのを見て「民の窮状を察し税を三年間免除した」という話が古事記にあります。果たして三年後、民の家々から煙が勢いよく上がるようになりました。しかし天皇の家は惨めなほど荒れ放題でありました。税免除の恩恵を受けた民がこれに気付き今度は民の方から納税を申し出ました。1500年前の逸話とはいえ天皇の優しさが伝わってきます。それに引き換え・・・
このところ、収入が増えないのに物価は円安やらで上がるばかり。国民の生活は窮迫しております。いつまでも大人しい国民でいいのか?
今こそ真の主権者になってほしい。税金を無駄遣いするなと言いたい。 
 これが老人の主張であります。

                                 
2023年10月14日
生々文庫目次に戻る
最初のページに戻る