ななえせいじのエッセー             
             
老人は感謝の心を忘れないように努力しましょう 
    
                          
       ななえせいじ
 
 
 老人だということをいいことにちょっとばかし世間に甘えすぎてはいないか?長い人生を生きてきたその生き様はそれなりにご立派ではありますが、この頃の年寄りは傲慢で厚かましく大切に扱われて当然というような思い上がりが透けて見えます。この間も地下鉄を降りて階段を上っていくと見知らぬ老婦人が「千円貸してくれない?」と寄ってきました。この手はすでに経験済みですから聞こえないふりをして突き落とされやしないかと警戒しながら階段を上っていきました。こうした場合の最上の手段は無視することと決めております。気の毒とも思いましたがそのご婦人の事情が分かりませんから。どう見ても私の方が年かさ、その上腿が不自由ときているから油断はできないのです。
 しかしコロナ後の世相はすさんでもいるが優しくもあります。年寄りを意識するようになって「そう感じます」。動作が鈍くなってより特に人の親切にほだされております。若い人に席を譲られるケースが多いのです。ありがたいことです。少し前までは意地を張って「大丈夫です」と辞退したものでしたがこの頃は素直に「ありがとう」と言って甘えております。可愛い年寄りになろうと心掛けつつ感謝の心を忘れないようにしております。
 茶道裏千家流教条にこうあります。
「たえず己の心をかえりみて多くの恩愛に感謝をささげ、お互いに人々によって生かされていることを知る」。またこうもあります。「他人をあなどることなく、いつも思いやりが先にたつように」とも。
私は傘寿をとうに過ぎて人々によって生かされている身であります。感謝!感謝。

                                 
2023年10月28日
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